専門家を名乗る最低ラインとは
少し前に「失敗の科学」という本を読んでいたのですが、そのなかで衝撃を受けたのが、いわゆる「1万時間ルール」と呼ばれる、才能が開花するまでには1万時間の訓練が必要という法則は、職種によっては訓練や経験が何の影響ももたらさないことが多い、という研究結果がある、ということでした。
その職種の代表として心理療法士、臨床心理士が挙げられていました。
なぜなら、心理療法は治療がうまくいっているかどうかを判断する客観的データに乏しく、終結事例のその後を知ることも少ないため、自分がやっていることがうまくいっているのかどうかわからないから、つまり自分たちがやっていることが成功か失敗かがわからないから、訓練や経験によってうまくならない、というのです。
暗闇でゴルフの練習をするようなもの、と例えられていました。
その対策としてデータとフィードバックが必要だと言われています。
Yahoo!ニュースの記事ですが、こちらでも一万時間の法則が間違いであり、もっと短い時間でスキルの習得が可能であるということが指摘されています。
こういう本や記事を読んで、臨床経験コンプレックスの私はある部分はホッとしたわけです。
心理士が上手になれないのは大問題ですが、それとは別に専門家になるには1万時間もいらないというあたりです。
確かに1万時間もかけないと一人前になれないのだとしたら大変すぎます。
回り道をしたら一人前になる前に人生が終わってしまいます。
専門家、技術者としての最低ラインを習得するならもっと低くて良いらしいとのことですが、さて心理士が専門家を名乗れる最低ラインってなんだろう?などと考えています。
臨床心理士や公認心理師資格を取るための勉強は最低ラインといえるのでしょうか。
それとも実際の臨床経験の中で学んだ生きた知識も必要でしょうか。
それも3年ならいいのか、5年ならいいのか、10年ならいいのか…と考えていくとドツボにはまっていきますね。
そこで必要なのがきっと先述したデータを取ることと、フィードバックを得て、ちゃんと臨床が「うまくなる」ことなのでしょう。
実際の臨床場面ではなかなか満足度アンケートを取りにくいですけれども、できれば取っていったり、相手をよく観察し、面接の過程を振り返り、この面接がうまくいっているのかどうかを冷静に検討することも必要でしょう。
また、事例検討会やスーパービジョンを受けることは、フィードバックを得るためにうまくなるためにはやはり必要ということになります。
さいごにこうしたデータやフィードバックを振り返って、何に失敗して、何がうまくいっているのかを分析しなければなりません。
私も失敗からきちんと学ぼうと思って本を買ったのです。
まだパラパラとしか読んでいませんが…。
ああ、「失敗から学べる」というのが専門家の一つの条件なのかもしれません。
失敗しないという専門家、怪しいと思いませんか?
酸いも甘いもかみ分けていると信頼できそうな気がします。